建物の老朽化を理由に店舗を移転させたり、閉店したというニュースがあります。
日本では、老朽化した建物についてのニュースが、ここ数年で多くなってきました。
ビルや家屋だけでなく、古き良き建物が取り壊されてしまうのはなんだか寂しいものがあります。
では、なぜ建物を残しておけるように建て替えができないのでしょうか?
実は古くなった建物を建て替えるにはクリアしなくてはいけない問題があります。
そのため、建物を壊して、建て替えが遅れているケースなどがあり深刻な問題となっています。
どんな問題で建て替えが難しくなっているのか、ご紹介します。
美術館の閉館から分かること
2020年に閉館することが発表された「原美術館」をご存知でしょうか?
東京品川区にある美術館です。
建物は、実業家だった原邦造が邸宅として1938年(昭和13年)に建築されたものです。その後、モダンな建物は美術館として利用され毎年多くの人が来館しています。
原美術:http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/
この美術館が閉館する理由は、「老朽化・バリアフリー・建て替えの法規制」とあります。
確かに建築が1938年(昭和13年)なので、約80年ほど前の建物なら老朽化を理由に閉館することは分かります。でも、残りの2つ、「バリアフリー・建て替えの法規制」についてはどんな理由があるのか疑問があります。
ここに建て替えを難しくしている理由を見つけました。
老朽した建物の建て替えが難しい3つの理由
どんな理由で、建て替えを難しくしているのかご紹介します。
1.建設基準法を満たしていない
全ての建物は、建設基準法に定められている基準を満たしています。
建設基準法は1950年(昭和25年)に制定されて以降も改正され、特に大規模な地震が発生した後には大きく見直されています。
こうして何度も改正される建設基準法ですが、1981年(昭和56年)の改定を大きな基準としています。その理由は「耐震基準」です。実際に1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災で倒壊した建物のほとんどが、1981年(昭和56年)以前の建物だったと発表されています。
建物は、建設するその時点で定められている建設基準法を基準としているので、現行の建設基準法を満たしていないくても違法な建物とはされませんが、そのままでは倒壊など危険度が高いことが分かります。
先述した美術館に関しては、1938年(昭和13年)と建設基準法制定前の建物ですから、基準の数値は満たしていませんし、倒壊以外にも水漏れによる漏電などが心配されます。
老朽化を理由とすることが分かりますね。
2.バリアフリーについて
バリアフリーとは、このように言われています。
対象者である障害者を含む高齢者等が、社会生活に参加する上で生活の支障となる物理的な障害や、精神的な障壁を取り除くための施策、若しくは具体的に障害を取り除いた事物および状態を指す用語である。
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC
このような構想を元に、バリアフリー法と呼ばれる法律があり、「建築物移動等円滑化基準」と「建築物移動等円滑化誘導基準」という2つの基準に分けられています。
建築移動等円滑化基準
建物をバリアフリー化するにあたって、最低限度の基準が定めらています。
- 階段等に手すりを設ける
- 車椅子利用者用のトイレが1つはある
- 案内板等に点字が記されている
これは、一部ですがエレベーターの出入り口の幅や駐車場の場所など細かく決められています。
建築物移動等円滑化誘導基準
バリアフリーを目的とした設備などを設置する時に推奨される基準が定められています。
- 出入り口の幅は90cm以上である
- 廊下等において水平で車椅子が通過しやすい
- エレベーターは音による案内ができる
これからの高齢化社会に向けて、公共の施設や道路で推進しています。
このバリアフリー法については、特定の建築物が対象となっています。
公共施設はもちろん、ホテルや老人ホーム、一部対象となるサービス店の店舗等が対象です。
その中には美術館も含まれており、建物・敷地内・館内等においてバリアフリー化を進めるには支障があることが考えられますね。
建て替えに関する法規制
建物を建て替えるには、バリアフリー法以外にも、クリアしなければいけない法規制があります。
接道義務について
建物は、土地が道路に接地していないと建設していけないという制約があります。
どんな道路でも良いわけではなく、建設基準法にあるように「幅4m以上の道路に、2m以上接地している」これが基準となります。
道路に接地していないといけない理由は、安全性です。
自然災害や火事などによって避難経路が確保できること。さらには救助してくれる緊急車両が接近できることが挙げられます。
理由を聞けば納得ですね。
容積率について
土地の大きさによって、建設できる建物のサイズは決められています。
決めるのは、容積率です。容積率とは、「敷地面積に対して、建物の延べ床面積(複数階あれば合算)の割合」をいいます。
容積率は、建設基準法に決められていますし、都市計画によって用途地域別に制限されています。
建て替えを機に増築したり修繕を考える場合も、この容積率を超えてしまうのは違法となるので、老朽していることは十分に分かっていても、踏み切れないケースもあり問題となっています。
日本における建て替え問題
安全性を考えれば老朽した建物は早く建て替えるべきですが、工事が進んでいかないことも問題となっているのが現状です。
特に問題となっているのは、マンションと公共施設です。
マンションの老朽化
都心に近いほどマンションが増え、タワーマンションと言われるような高層マンションが建ち並ぶのも珍しくはありません。
そんなマンションの中でも、老朽化が進んでいます。
現在、2018年に築50年以上のマンションは全国に5万戸はあるとされています。
マンションの建て替えが進まない理由は、建設基準法を始めとする法規制の問題もありますが、居住者の意識が変化してきたことにもあります。
以前の日本では、マンションに住むといえば仮住まい感覚の人も多かったはずです。まずは、貯金をして「いずれはマイホーム」と考えるのが自然な流れでもありました。
しかし、近年では土地の高騰により都心にマイホームを構えるのが難しくなっており、マンションを永住と考える人が増えてきました。
マンションの建て替えとなれば、仮住まい、新規購入となれば約2000万円以上の資金は必要となります。簡単に用意できる金額ではありません。
法規制以外の問題からも建て替えが進められず老朽していく状態となっています。
公共施設の老朽化
役所・保健所・図書館など公共施設の老朽化も問題となっています。
公共の施設となれば、税金が使用されます。日本の総人口が減っていることからも変わるように、市町村でも人口が減れば税収が減少します。税金を建て替えだけに使用できませんから、財源確保が問題となっています。
また、公共の施設もマンションと同じように、築50年近い建物が多くあります。
地震を始めとする大規模な自然災害の際には、避難場所となるのが公共施設です。大勢の人が集まる場所ですから修繕も欠かせません。
公共施設も、建て替えの課題を多く抱えているのが分かります。
まとめ
建物の老朽化と、建て替えを難しくしている理由についてご紹介しました。
現存する建物は、昭和40年〜50年代が多いといいます。昭和56年以前の建物も決して少なくはありません。耐震基準からみても大規模な地震に耐えられるかは不安があります。
分かっていながらも、法規制や資金などを理由に建て替えが進められずいるケースもあります。
将来的な安全性を確保したいけれども、目先の不安があり踏み切れないのが現状です。
空き家が増えて廃墟化とならないように、どうするべきか?課題は尽きないようです。