街の景色が変わらないということは、住み慣れた場所であれば懐かしさを感じて嬉しいものですが、フォーカスする点を建物に置き換えた場合、建設されてからどれくらいの年数が経ち、メンテナンスがされているのか、疑問に思ってしまう点が多く存在します。
特に注意が必要なのは、築40年以上経過している建物です。今とは違うデザイン、建物や家賃は安くなるというメリットはありますが、実は安全面には非常に不安が残ります。
今回は、築40年以上の建物の魅力やメリット、そこに潜んでいる危険や必要なことをご紹介します。
日本の建物は寿命が短い
鉄骨や木造など、構造の違いにもよりますが、日本の建物の寿命は25〜30年ぐらいだと言われています。
この寿命を長いと感じるか、短いと感じるかは人それぞれですが、世界的にみると実は日本の建物の寿命は短いのです。
海外旅行や写真などでヨーロッパの綺麗な街並みを見たことはありませんか?そこに建ち並ぶのは古い建物ばかりです。国や環境にもよりますが、ほとんどの建物が建設されてから100年以上経過するものばかりで、建物の寿命が長いのです。
寿命が短いのは価値観の違い
建物の寿命の違いは、日本とヨーロッパとで建物に対する価値観の違いだと言われています。
ヨーロッパでは、歴史的に価値があるからと建物をただ残すというだけでなく、実際に住んでいることにも驚かされます。これは、人々が古い建物に愛着を持っていること、魅力を感じているからです。
そのため、建物の点検と修繕の繰り返しを当たり前のように行っています。欠陥があるのは当たり前、今も将来的にも長く利用していくことを前提としたメンテナンスをしています。
しかし、日本では全く逆で、新しい建物に価値を見出しています。築年数が経過していると、メンテナンスやリフォームが必要となります。だから築年数が経過している建物はリスクであったり、費用が増えてしまうとマイナスイメージで捉えがちです。
建物を長く残すという発想がないため、点検ははしても修繕は一部やその場しのぎで終えてしまうことがほとんどです。
また、価値観の違いがあるのには「日本が地震大国」であることが考えられます。大規模な地震を繰り返し乗り越えてきた日本はその都度、建物に対する耐震性を厳しくしています。そのことを考えると、古い建物は耐震性が弱く倒壊してしまう可能性があります。
価値観と環境の違いで、建物に対する考え方は大きく違い、寿命も変わってしまうのです。
築40年を超えても需要がある理由
築40年以上の建物への不安はあるものの、購入したり借りる人は実際にいます。
今でも需要がある理由は3つあります。
デザインが違う
現在のビルやマンションなどは、多少の違いはあるとしても、そのほとんどにデザインの違いはありません。建物のだけでなく、内装や間取りについても同じことが言えます。無機質でムダがないことが特徴的です。
しかし、築40年を超えている建物は、独特なデザインのものが多く、外観も内装もオシャレで魅力的です。ヨーロッパで学んだ建築家たちが、当時の建築技術やデザインを日本の設計にも取り入れることで、奇抜なデザインにみえても人々を魅了する建物となりました。
耐震性・耐久性などを理由に取り壊しが続いていますが、オシャレな建物は、若い人たちにも人気です。
意外と立地条件がよい
今から40年以上前の日本は、土地開発も続いていたので駅近くの土地にマンションやビルが多く建設されました。
土地の価値は今も変わりませんから、駅近くの建物には価値があります。立地条件の良さはビジネス、住宅、どちらからみても魅力的であることは違いありません。
建物の資産価値が変わらない
建物は、建設されてから少しずつ価値が落ちていきます。マンションでいえば下落率は、築5年で20%ほど下がることがあり、価格が安定しません。これは、築年数が一定期間を経過することで安定してくるタイミングがあります。
新しいものに興味がありながらも、将来的に資産価値が見出せる建物であれば、相場が安定している建物の方が購入しやすいのです。
建物を利用する人、立地条件を含む周辺の環境などによって、建物の資産価値は変わりますが、大きく変化する可能性が低いなら、新築よりも価値があります。
築40年の建物の問題点
日本の建物の寿命から考えると、築40年を超える建物には問題視する点や、必ずチェックしておくべき点が多くあります。
そうした問題点をご紹介します。
建物の耐震について
先述したように、日本は地震大国です。建物の耐震性については厳しく定められています。大規模な地震を何度も経験するたびに、同レベルの地震が再び発生しても建物が倒壊しないことを新基準としているので厳しいのです。
建物の耐震基準は、建築基準法に定められています。改正を続けているので、それをクリアしている設計でなければ建設することはできません。
つまり、築40年を超える建物は、当時は耐震基準をクリアしていても、現行の基準を満たしていない建物がほとんどなのです。
新耐震基準と旧耐震基準の違い
新耐震基準と旧耐震基準によって建物の耐震について説明されることがあります。改正を繰り返しているので、基準が少しずつ違うのは当たり前なのですが、1981(昭和56)年6月1日の改正だけは、ここで大きく違い変化あったとして新耐震基準と旧耐震基準の境目となっています。
どれくらい違うのは、下記の通りです。
・新耐震基準:建物が震度6強〜7でも倒壊しない
・旧耐震基準:建物が震度5強程度でも倒壊しない
2011年の東北地方太平洋沖地震は最大で震度7が観測されています。旧耐震基準の建物は倒壊してしまいます。
メンテナンスが必要
築年数が40年も経過すれば、建物は経年劣化をしてくるので何らかの修繕が必要となってきます。目に見える部分だけでなく、建物の内部での劣化も考えられるので、新しい建物より点検が必要になります。
・外壁
・天井、床などの欠損
・柱や壁のひび割れ
こうした部分を見つけたら、内部までの点検が必要になるので、定期的なメンテナンスを続けてください。
また、経年劣化するのは建物だけではありません。配管、電線などの劣化も考えられます。こちらについても点検が必要です。
築40年の建物を残す
いま、築40年を超える建物は、取り壊しが続いています。歴史的に貴重だった建物も取り壊されています。
例えば、東京にあった「原美術館」は2021年1月に閉館となり取り壊しが予定されています。私邸を改修して美術館として生まれ変わった建物は、美術品の良さだけでなく、この建物自体のファンも多く存在しました。
周辺の環境や建築条件などもありますが、少しでも建物を残していきたいという動きがあります。
これらを支えるのは、ヨーロッパに古い建物にも愛着を持ち、長く住み続けるという意識で建物を活かす改修を行うことが必要となります。
そのためには、一部だけの修繕計画だけでなく、長期的に修繕計画を立てます。経年劣化してくる部分を考えながら、いつ・どこを改修をしていきます。見た目的に直す必要がないと捉えるのではなく、建物の将来を考えて修繕計画を立てて実行していくことが重要です。
まとめ
築40年を超える建物の問題点や残しかたについてご紹介しました。
建物の魅力は新しい、古いというだけでははかれません。
建築家の思いや設計のこだわりなど、一つの建物の価値を見出して大切にしていきたいですね。