地震大国である日本において、地震は必ず発生するものですが揺れが大きかったり、長く続く時にはやはり不安になります。
最近では、石川県を中心とした震度6弱の地震は、記憶に新しいところです。
建物の地震対策として私たちが意識するのは「耐震」です。建物が地震にどれだけ耐えることができるのか、耐えられるように設計されていること意味します。
しかし、現在の建設業界において力を入れているのは「耐震」ではなく「免震」だということです。
同じようで違うこの二つですが、耐震の説明はできても免震の説明はできないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は地震に対する対策である「免震」について、改めて学んでいきましょう。
日本の優れた免震構造
過去の大きな地震を経験するたびに、建築基準法が見直され日本で建設される建物は「地震に強い建物」になっていきます。
地震に耐えられる建物になることで、倒壊の危機が避けられるので人の命を守ることができます。
さらには、建物は資産ですから、地震で崩れたとなれば失うことになります。しかし、地震に耐えた建物となれば、価値を失うことなくむしろ上げることとなるケースもあります。
免震構造とは
これまでは地震に耐えることができる建物の構造を考えてきましたが、免震構造では地震による揺れが建物に伝わらないような構造になっています。
その仕掛けは、建物の基礎となる部分にあります。積層ゴムなど「絶縁部材」と呼ばれるものを入れます。これによって免震層ができるので、地震による揺れが建物には伝わらないようになります。
こうすることで建物は震度が高くても、揺れが小さくなるので倒壊するような損傷はなく、中にいる人たちの命を守ることができます。
耐震構造と免震構造の違い
耐震構造と免震構造は、建物の中にいる人の体感が違います。
耐震構造の建物の中にいる人は、地震が発生したら「地震が来た!安全確認ができたら逃げるぞ!」と、大きな地震が発生していることに気づきます。自分の身の安全を考えながら逃げることを考えます。
免震構造の建物の中にいる人は、地震が発生したら「揺れたかな?」と、実際の揺れ方との違いはなく、慌てて逃げ出すことは必要ありません。
地震後の建物は倒壊したり、倒壊する危険性ことから損傷を探す必要があります。しかし、免震構造の場合は、建物の点検は揺れないのですから必要はありません。
免震構造のメリット
免震構造にすることのメリットがあります。
安全性の向上
ここまでの説明の通り、建物には損傷がないので中にいる人たちを守ることができます。さらには、建物の中にある家具が倒れて地震後の二次被害もありません。
設計に自由が生まれる
地震が発生した時のことを考えて、設計には制限がありました。
免震構造には、地震による損傷が少ないことがわかっているので、構造についてもわがままが言えるのです。
安心感が上がる
どんな建物でも地震は怖いです。免震構造をよく理解していないと怖い以外なにものでもありません。
免震構造を理解すると、揺れないから安心という気持ちが上がります。
資産が守れる
地震による損傷がありませんから、点検、補修などはいりません。
むしろ、地震に耐え無傷であれば価値が上がる場合もあります。
他の機能を守ることができる
建物に損傷がないということは、建物そのものに考えられている仕上げ材、設備等も被害を受けていないので他の機能もそのままです。
地震から守る耐震性能グレード
日本の建物は建築基準法をクリアすることで、地震に強い建物だといえます。
しかし、地震に強いといってもどれくらいの地震に耐えられるかは建物によって違う場合があります。ただ基準をクリアできているというだけのもにすぎません。
免震構造は、こうした曖昧なものではなく「耐震性能グレード」というランクに当てはめることができます。
耐震性能グレードには4つのランクがあります。
・Sランク(特別な建物)
・Aランク(大地震後も機能維持できる)
・Bランク(大地震後も使用できる)
・Cランク(大地震時に倒壊しない)
耐震構造の建物は、建築基準法をクリアした建物として評価されます。
上記のランクではCランクに該当します。
それに対して免震構造は、基準をクリアして地震から建物を守れるということで上位のS・Aランクの評価に該当します。
ランクが上になるほど、高層ビルのような大きな建物を建設することが認められます。
免震装置とは
冒頭でもお話したように、基礎の部分に絶縁部材が入ります。
こちらにも種類があるので、ご紹介します。
アイソレーター
積層ゴムが代表されるように、ゴムと鉄板を相互に挿入したものをいいます。
こうすることで主に水平方向の揺れから建物を守ることができます。
ダンパー
地震のエネルギーを吸収して建物の揺れを減らす役目をしています。
免震構造の建物の費用
地震に強い免震構造の建物は、他の構造の建物と比べると費用が高くなります。
費用が高くなる理由は、免震装置と設置費用です。
先述した免震装置は、免震層と呼ばれる部分に設置され地震の揺れを低減します。
そして、免震ディテールとなる設備配管。
これらの免震装置と設備費用が、建設費用を高くしています。
免震構造の工事費用としては、骨組みとなる躯体の費用が一番かかります。
通常の建設に必要となるコンクリート、型枠、鉄筋など多少コストが高くなるのに加えて、免震のコストが加わります。
免震構造の課題
免震として優れた構造ですが、今後も課題はあります。
縦揺れ
免震構造の地震の揺れが逃がせるのは、横揺れのみになります。縦揺れには弱いのです。
縦揺れとは、最初に「ドン」とくる直下型地震のことをいいます。震源地が建物の下だった場合、この縦揺れを逃すことはできない可能性があります。
この縦揺れによって建物の柱がダメージを受けたら、免震装置は機能する前に建物は倒壊してしまいます。
同じ日本国内でも、過去に大きな地震が発生していたり、地形的に発生しやすいといわれる地域や場所では、土地の調査は必要になります。
高層タワーマンション
免震構造は、住宅や階層の低い建物より規模の大きな建物との相性がいいのですが、細長く面積が狭いため、装置を設置しても揺れを逃がすだけの条件が整わないといわれています。
免震構造を建物を企画する段階から、土地の広さは確認しておく必要があります。
どちらも意外な感じがしますが、免震構造は他の構造より費用が高くなります。必要となる場面には遭遇したくはありませんが、そもそも機能しないということがわかっているなら、企画そのものは見直す必要があると考えます。
まとめ
免震構造の仕組みについてご紹介しました。
大規模な地震を経験するたびに、地震に対して強い建物にするべく基準が厳しくなっていきます。耐震性能が一番低いグレードでも大きな地震で倒壊しないことが基準になっています。
そんな厳しい条件をクリアする建物が建設できるだけでなく、地震の揺れを逃がす構造を作り出している日本の建築技術はレベルの高いものです。
建物を守ることは、人の命を守ることと同じです。免震構造によって助かる命があるなら、災害による悲しみは減ります。
さらには、建物は大事な資産です。長く維持することも免震の役割です。地震に耐えることができれば価値も上がります。
まだまだ課題もありますが、さらに強化されていくことに期待したいですね。