新年を迎え、1月中旬になると「センター試験」があります。毎年のように雪に見舞われ会場に着くまで大変な思いをしている受験生が多くいます。
この頃は、暦では「大寒」といい一年の中で一番寒い時期となります。冷え込めば雪も降り積もり、交通機関にも影響が出てしまうのが例年です。
しかし、雪が降り積もることで困難を強いられるのは、交通機関ばかりでなく建物を同じです。大寒波により特定の地域で雪が降り続ければ、雪が重みとなり屋根が崩落することもあります。
自然災害は、雪だけではありません。雪による影響があります。
今回は、積雪による建物の基準や予想される被害などをご紹介します。
大寒波による建物への影響
平成最後の年末年始には、大寒波が襲来するという予報が出て帰省するのも一苦労だった人もいます。
その地域で著しく気温が下がり波のように押し寄せることから「寒波」と言われ、これが全国に広く影響する場合に「大寒波」と言います。
大寒波が襲来すると考えられる影響は、
- 気温が下がる
- 強風が吹く
- 大雪となる
他にも凍結なども考えられます。
このような気象状況の中、建物への影響も少なくはありません。
- ガスや水道の配管が凍結
- 屋根の崩落
ガスや水道はライフラインですから、人命に関わりますし、積雪に耐えられずに崩落するなど、雪に慣れない地域では驚くようなことばかりですが、これらは実際に起った被害ばかりです。
大寒波など、冷え込み積雪が予報される時には十分に注意が必要です。
積雪に関する建設基準について
耐震・耐火などのように、積雪に関する建物の基準も「建築基準法」によって決められています。
基準を説明する前に、ふわふわと降ってくる雪が降り積もることで、どれだけ重くなるのかをご説明します。
例えば、積雪1cmとします。この場合、1㎡あたり20N(ニュートン)の荷重がかかるとされています。1Nが約100gなので、約2kgの重さがあります。未開封の2リットルのペットボトルと同じ重さです。
10cmの積雪であれば注意して外は歩けますが、屋根に降り積もる雪は約20kgにもなり負担がかかります。
この数値を元に積雪荷重を考えて基準を決めています。
そして、基準は二つの地域よって違いがあります。それが、多雪区域と一般区域です。
多雪地域とは
多雪区域に該当する地域は以下のように決められます。
- 垂直最深積雪量が1メートル以上となる
- 積雪期間が30日以上となる
こうした多雪区域での積雪荷重はの基準は、「積雪1cmで30N/㎡」です。約3kgの荷重に耐えらえる設計が基準となります。
一度降り始めたら長く、降り積もることも分かっているので、積雪荷重にはそのことも考慮されています。
一般区域とは
一般区域は、多雪区域に該当しない地域を言います。
こちらの区域では、「積雪1cmで20N/㎡」を基準に設計がされます。
しかし、ここ数年における大雪は多雪区域に指定されている地域だけでなく、東京のような一般区域でも観測がされています。そして、多雪区域のように「長くて降り積もる雪」とは違い、短期間で大雪となるケースが多くあります。場合によって建築基準を満たしていながらも、屋根の崩落など被害が発生しています。
今後、基準数値が見直されることも考えられます。
雪の質によっても重量は違う
雪にもタイプがあるため、重量に違いがあります。
・降ったばかりで結晶の形があるタイプが「新雪」です。
1㎡の重さは、約50~150kgとなります。
・降り積もり雪の重みで固くなった雪が「しまり雪」です。
1㎡の重さは、約250~500kgとなります。
降り積もり時間が経つことで雪は重くなっていくので、建物への負担は大きくなるばかりです。
積雪による建物への被害について
積雪による建物への被害として3つの被害が挙げられます。
- 屋根の崩落
- 開口部の封鎖
- すが漏れ
屋根の崩落について
関東地方において積雪によって、体育館の屋根が崩落したケースがありました。
地震のように建物が倒壊するのではなく、屋根が崩落するのはやはり基準数値以上の積雪荷重が屋根にかかり耐えられなくなったこと考えられます。
体育館ほどの大きな建物となれば、鉄骨造で立てられるので柱や梁など強度は十分にあります。屋根だけが耐えられなくなり、しなってしまうのです。
開口部について
積雪により被害があるのは屋根だけではありません。
開口部といった窓や玄関なども積雪により封鎖されてしまうことがあります。
雪は重く圧迫されるので、男性であっても開けることは容易ではありません。凍結しているところを無理してしまえば、損壊してしまうこともあります。
すが漏れについて
屋根に降り積もった雪が溶け出してくると、すぐには溶けてなくなりませんから氷となります。この氷が溶け出すと室内へと水漏れすることがあります。
この現象は、屋根の勾配は緩やかな建物ほど起きやすいと言われます。
多雪区域では建物の設計時点で考慮する必要があります。
積雪荷重に対する対策
積雪荷重から建物を守るための対策をご紹介します。
落雪屋根
屋根に上がり雪下ろしをすることが必要ですが、常にできる状況ではないことです。
工場や倉庫など建物の規模が大きくなれば、雪下ろしをすることも容易ではありません。
そのため、屋根に角度をつけて自然に雪が落ちるように設計がされます。これを落石屋根といいます。
世界遺産の白川郷の合掌造りの屋根をイメージしてください。両側の屋根勾配は約60度あり、積雪荷重による建物への負担はほとんどないとされています。
雪にも強い鉄骨造
地震に強い鉄骨造は、雪にも強く多雪区域の工場や倉庫、住宅でも用いられる構造です。
柱や梁、基礎で建物を支える鉄骨造は、使用する鉄鋼も肉厚とされるH鋼です。
降り積もった雪は落雪させることが基本ですが、耐雪された建物では屋根の上で雪を溶かすことを可能としています。
さらに、鉄骨造の良いところは、デザインにこだわれることです。合掌造りのように雪下ろしに優れた建物を建設すると、建物や間取りなど限られてしまいますが柱・梁・基礎の強度が強いので、用途に合わせたデザインを可能とします。
番外:工場の排熱利用
新しい試みとして進められているのが、工場の排熱を利用した融雪です。
これまで工場から出る排熱は、省エネ対策として再利用を国が推奨していますが低温で用途が限られていました。現在は駅前ロータリーなどで融雪用と利用が始められました。
工場や倉庫など、大規模な建物への利用も今後は考えられます。
まとめ
いかがですか?
積雪による建物の影響をご紹介しました。
日本で豪雪と言われる地域の雪がどれくらい降り積もるかはご存知ですか?一晩で1m前後の雪が降り積もることも珍しくはありません。屋根の上に1mもの雪が積雪されれば、強度の弱い建物では屋根だけでなく倒壊する危険もあります。
また、近年のように短期間で降り積もることがあります。雪になれない地域で降れば、雪下ろしも容易なことではなく、雪の下敷きになり怪我をしたり事故が発生したりすることもあります。
自然災害のようにあまりに漠然としていて、準備ができていないこともあります。人だけでなく、建物への配慮も考えてくださいね。
また、建築基準法の積雪荷重の基準も変更されることが予想されます。
工場や倉庫など、大きな建物になれば屋根の負担を考え使用する鋼材の種類、柱や梁の間隔を考える必要があります。
建築士と相談して十分に備えてください。