禅の言葉に脚下照顧という言葉がありますが、精神的にも肉体的にも、足もとがしっかりしていなければ、人は真っ直ぐに立ち続けることができません。それは、建物も同じです。
建物の足下、それは「柱脚」と呼ばれる部分にあたります。
柱脚の仕組みを知っておくのは、とても大切なことです。
そして、絶え間ない努力の末に編み出された強い柱脚を造るために重要なポイントを押さえましょう。また、失敗しやすい点や、特別注意が必要な作業を、予め把握しておきましょう。
実際に工事に関わらない人も、現場の人がどれだけの工夫を凝らし、積み上げられた知識と技術の上で作業をしているのか知ると、建物に対する見方が変わってくるかもしれません。
もしかしたら地震に対する恐怖心を抱いている人も、知る前よりも、知った後の方が、安心ができるかもしれませんよ。
今回は、露出柱脚という形式の柱脚を例にして、解説していきたいと思います。
柱脚の部位とは
柱脚はいくつかの部位から成り立っています。
「角形鋼管柱」「H形鋼」「鋼管」など、柱の形状があります。
そして柱と溶接される「ベースプレート」。
ベースプレートの下に入れる「レベル調整モルタル」。
更にその下には、コンクリートでつくられた「基礎柱形」があります。
それではこの六つの部位を、どのように組み立てていくのでしょうか。順を追って現場の様子を説明していきましょう。
アンカーボルト設置について
アンカーボルトは、基礎配筋と同時進行で設置します。これが柱脚工事の最初の作業です。
仮留めプレートが付いたアンカーフレームに、墨出し位置に合わせて、アンカーボルトを取り付けていきます。
据え付け方法は2種類あります。
鋼製フレームによる固定方式と、木製型枠による固定方式です。
よりしっかりと固定したい場合には、鋼製フレームによる固定方式が適しています。このアンカーフレームは、工場で製作されます。
そして鋼製フレームを使わない場合に、木製型枠による固定方式をとります。この方式では、木製の型枠と浅木、そして仮留めプレートで、アンカーボルトを固定します。
木製型枠による固定方式は、鉄骨造の建物を、RC造の梁、及び、柱型の上に建てる、小規模建築物で多く用いられます。
アンカーボルトが埋め込まれるコンクリートと、アンカーボルト自体の耐力には、密接なかかわりがあります。
そのため、スペースが狭いからといって、アンカーボルトどうしが近い状態に設置すると、柱脚の耐力が落ちてしまいます。設置間隔は、建物ごとに構造計算により決定されますが、10径以上が望ましいと考えられています。
また、アンカーボルトが曲がっていると柱が立ちません。セット完了後に曲がっていないかチェックするのはもちろんのこと、次の工程である基礎コンクリート打設時に動いてしまわないように、強固なものにすることが重要です。
アンカーボルトを設置し、基礎の配筋も完了したら、現場監督と構造設計者による配筋検査が行われます。
基礎コンクリート打設について
アンカーボルトを固定している鋼製フレームは、基礎コンクリートの中に埋設されます。
コンクリートからは、仮留めプレートと、その上に出ているアンカーボルトの頭だけが露出する形になります。
このとき、必ずしておくことが、アンカーボルトの養生です。
原則として、基礎天端からのボルト余長は、モルタルの高さと、ベースプレートの厚み、そしてナット3つ分以上とされています。
墨出し
基礎コンクリートに、工事の基準となる線をしるしていきます。
モルタルの施工について
まずはトランシットで測量をします。
次に仮留めプレートを外します。コンクリートからは、アンカーボルトの頭だけが突き出ている状態です。
モルタルを盛る場所に、モルタルの付着をよくするプライマーを塗ります。
そうしてから、モルタルを調合していきます。
使うのは無収縮モルタル。
通常、体積比2:1の割合で、砂と普通ポルトランドセメントを調合し、適量の水を加えて混練りします。ベースプレートの中央に位置するように、調合した無収縮モルタルを盛っていきます。
高さはレーザー墨出し器を使ってレベルを確認しながら、調整していきます。目安は30~50mm。30mm未満だと、モルタルが割れてしまいます。反対に、50mmを超えると強度が不足してしまうので、精確さが求められる作業です。
施工が完了したら、三日以上の充分な養生期間をとります。
こうして施工されたモルタルを、モルタルまんじゅうと呼びます。
建方の注意点について
所定の位置に、ベースプレートが溶接された柱を据え付けます。
ベースプレートには、アンカーボルトを通すための孔が開けられています。まずはその孔に、必要最低限のナットで、アンカーボルトを仮留めします。
これまでの作業で、適切なチェックが行われていないと、アンカーボトルが孔に合わないという失敗が起こることがあります。
実際に、工場へ持ち帰らざるを得なかったケースもありますので、注意が必要です。
ボルトの本締め(建直し)
ボルトの仮留めが終わり、歪み直しもできたら、ボルトの本締めに入ります。
本締めでは、ナットをダブルにします。これは、繰り返し荷重により、ナットが緩んでしまうのを防ぐためです。
モルタル充填
ベースプレートの下面を固めるために、モルタルまんじゅうの周りに、更に無収縮モルタルを盛っていきます。
ベースプレートの幅にしっかり沿うようにモルタルを充填します。
モルタルまんじゅうに対して、こちらはベースモルタルと呼ばれます。
基礎立上り部分のコンクリート打設
柱脚の工事の仕上げに、基礎立上り部分のコンクリートを打設します。
ここでついに、基礎柱形がかたちを持ち、柱脚周りが確立するのです。
外壁面との納まりを踏まえて、基礎立上がり部分と柱脚の位置関係を調整します。
基礎柱形は外壁面から、50~100mmほど出っ張る形となります。
サイズ比を、既製品の露出柱脚を例として、いくつかご紹介しましょう。
鋼管断面が150mm×150mm×9mm。ベースプレートが寸法300mm×300mmで、厚さ25mmの場合、ボルトの高さは165mm。基礎柱形は、最小で寸法460mm×460mm。深さは550mm以上必要となってきます。
鋼管断面が175mm×175mm×9mm。ベースプレートが寸法320mm×320mmで、厚さ28mmの場合、ボルトの高さは165mm。基礎柱形は、最小で寸法500mm×500mm。深さは550mm以上必要となってきます。
鋼管断面が200mm×200mm×12mm。ベースプレートが寸法360mm×360mmで、厚36mmの場合、ボルトの高さは165mm。基礎柱形は、最小で寸法550mm×550mm。深さは600mm以上必要となってきます。
鋼管断面が250mm×250mm×16mm。ベースプレートが寸法460mm×460mmで、厚さ40mmの場合、ボルトの高さは165mm。基礎柱形は、最小で寸法630mm×630mm。深さは600mm以上必要となってきます。
他のメーカーや、既製品を使わない場合でも、寸法は大体同じとなります。
こうした出っ張りが生じるため、柱脚の納まりには設計段階から注意が必要です。
柱脚の工事は、これで完了となります。
まとめ
柱脚の仕組み、皆さんは理解できましたか?
建物自身が自分の足下を見られない分、人が見てあげなければなりません。
日本は地震大国とも呼ばれる国。いくら地震が起こらないことを祈っても、いつかは必ず起きますし、建物を造らないという手もありません。
それなら倒壊の被害を防ぐ手は一つ。正しく仕組みを知り、持てる技術を尽くして強い建物を造り上げることです。
柱脚一つとっても、多くの人々の力が必要であり、それだけの手がかかっていることを忘れてはいけません。
柱脚の3つの形式とその利点についてはこちらです。
