仕口は、梁と柱が交じり合う部分のことです。
ただ、仕口という呼称は、人によって具体的にどの部分を指すのかは違っており、特に鉄骨加工工場では、仕口という言葉自体を使う人があまりいません。
それでは、どういう呼び方を使うかといえば、切断したコラムと呼ばれる鋼管柱の上下に通しダイアフラムを溶接したものは「タイコ」「サイコロ」「コア」など。そこにブラケットが取り付けられるとまた呼称が代わり、「ブロック」「パネルゾーン」などで呼ばれます。
今回はこれら全てを含めて「仕口」として、仕口がどのように造られていくのか、順を追って説明していきましょう。
木造やRC造とは違って、鉄骨造の師口は複雑で独特な形状をしています。工程を知れば、多くの凹凸ができる理由が、きっとわかるでしょう。
仕口の形式
仕口の形式には二つの種類があります。ブラケットタイプと、ノンブラケットタイプです。
ブラケットとは、柱にとりつける、短い梁のことです。
ブラケットタイプは、あらかじめブラケットを工場で溶接するタイプのこと。そして、ノンブラケットタイプは、現場で柱と梁を溶接するタイプのことです。
ブラケットタイプはかさばるため、搬送時の効率は悪いですが、現場での溶接を避けることができます。柱と梁の現場溶接は、コストがかかり、高度な技術が必要となってくるため、中小規模の建造物ではブラケットタイプがポピュラーです。
今回は、ブラケットタイプを例にしていきましょう。
切り板加工
まずはブラケット用のH形鋼を、バンドソーマシンを使って切断していきます。
このバンドソーマシンとは、日本語で帯鋸盤のこと。超鋼と呼ばれる、炭素の粉とタングステンを焼き固めた帯鋸が左右に高速で動くことで、少しずつ上からH形鋼を切断します。
孔あけ
切断したH形鋼に、高速孔あけ加工機で孔をあけます。
これは、ボルトを接合するときに必要になる孔です。
二本のドリルで、同時に二箇所に孔をあけていきます。
開先の加工
開先とは、溶接する二つ目の部材の間に設ける溝のことです。グルーブとも呼ばれます。レ形をはじめとして、V形やI形の片面グルーブ。K形、X形の溝を裏側にも設ける両面グルーブがあります。
回転刃で、ブラケットの上がりフランジを35度になるように斜めに削っていきます。
このとき、開先の角度が狭すぎると、溶着金属量が十分に溶け込まなくなってしまいます。また、逆に広がりすぎてしまうと、溶着のための金属量も多く必要となり、溶接部の収縮量が多くなることで、変形しやすくなってしまうので注意が必要です。
サイコロの製作
サイコロとは、切断した鋼管柱の上下に通しダイアフラムを溶接したものです。
今回は、一つの柱に、複数のせいが違う梁が取り付く場合を想定して、通しダイアフラム形式に内ダイアフラムを入れたサイコロを例にしていきましょう。
組み立て溶接
本溶接の前に、組み立て溶接と呼ばれる、部材を組み立てていくための仮溶接部を行います。
まずは、内ダイアフラムを設置するための台を切断した角形鋼管の内部に設置します。そうしてから、内ダイアフラムになる鋼板を台の上にのせます。
この鋼板は、あらかじめ斜めにコーナーを切断しておきます。角形鋼管には、コーナーにRがついているため、そこに隙間ができる状態です。
そうして、コーナーの隙間を残して、組み立て溶接のための裏当て金を各面に置いていきます。
組み立て溶接では、溶接長を30mm以上取り、溶接していきます。
完全に裏当て金を固定するために、溶接は二度行います。すべて溶接は、ガスシールド半自動アーク溶接です。
アークとは、すなわちアーク放電のこと。気体中の放電の一種です。溶接機の電力によって発生させます。
そして鉄骨加工工場において、「ガスシールド半自動アーク溶接」は、よく選ばれる溶接方法です。
仕組みとしては、溶着金属となる、コイル状に巻かれた金属ワイヤーが、ノズル状になっている「トーチ」の内部に自動的に供給されていきます。それと同時に、ガスも供給されることで、溶接不良を引き起こす酸素を排除します。
こうした仕組みから、溶接時間がその他の方法に比べて短く済み、溶接の信頼度が高いという大きな利点をもちます。
固定ができたら、組み立て溶接は完了です。
本溶接
隙間を残しておいた内ダイアフラムのコーナーに、エンドタブを置きます。
エンドタブとは、溶接不良が起きやすい溶接個所の両端部において、確実に全断面を溶接できるように捨て板としてとりつける、鉄片やセラミックのことです。
本溶接では、溶接不良を防ぐために、一度溶接を始めたら、エンドタブがある終端まで止めずに行います。
ただし、Rがついているコーナーは溶接不良が生じやすいことから、溶接自体をしないことも多くあります。その場合は、柱の両端部を避けてブラケットを取り付けます。
本溶接ができたら、サイコロは完成です。
サイコロに通しダイアフラムを溶接
工場で製作した専用の治具を使いって通しダイアフラムを垂直に立たせ、サイコロをドッキングしていきます。
まずは両面を組み立て溶接してから、本溶接へと進みます。
ブラケットのドッキング
ブラケットをサイコロにドッキングしていきます。
梁上端のレベルと通しダイアフラムを揃えるため、通常の設計では、上下を逆さにした状態で作業をします。
裏当て金をブラケットのフランジと、通しダイアフラムに溶接します。このとき、ダイアフラムのサイズは、フランジよりも2サイズ厚いものを使います。
梁フランジとダイアフラムは完全溶込み溶接で溶接していきます。
完全溶込み溶接とは、その名の通り、完全に部材の断面どうしを融合させる溶接方法です。大きな応力がかかってくる、このような場合に多く使用されます。
両端にはエンドタブを用います。このエンドタブは、一時的にタブ留めで固定してから、溶接します。
溶接時には、適正な温度であるか管理するためにチョークが用いられます。示温チョークと呼ばれるチョークで、色の変化で温度を測ることができます。
最後に、サイコロにウェブを溶接したら、仕口は完成です。
溶接の仕方は、隅肉溶接。
隅肉溶接とは、完全溶込み様式とは異なり、開先をとらずに接合する方法です。そのため、繰り返し荷重のかかってくる場所や、主要構造部には使用できません。
溶接後、エンドタブは母材を傷つけないように、溶接面を残して切り落とされますが、裏当て金は溶接されたままです。
そのため、鉄骨造の仕口は凸凹した複雑な形状となるのです。
裏当て金が使用できない場合
裏当て金を溶接したまま残したくなかったり、裏当て金の溶接ができない場合には、「裏はつり」と呼ばれる作業を行います。
裏はつりとは、もともと、溶接で生じるひずみを均等にしたり、応力集中を避ける目的で行う溶接のことで、板厚がある程度厚い鋼材で用いられることを想定しています。
一層目の溶接を、裏から一度はつり出してから、再度裏面から溶接を行うことで、裏当て金が無くても溶接ができるという仕組みです。
まずは、一度溶接した部分を、ガウジング棒を使って削り掘っていきます。その削られた面に、改めて溶接を行なっていきます。
溶接後に取り外しができる固形エンドタブを付け、再び溶接すれば、凹凸のないキレイな溶接面に仕上がります。
まとめ
仕口の仕組み、おわかりいただけたでしょうか。
鉄骨造では、溶接をより強固なものにするために、多くの溶接方式や金属が使い分けられているのです。
意匠の関係で、凹凸を無くす工夫がとられることもありますが、全ての仕口でそうはいきません。
しかその凹凸にこそ、建物を丈夫にする知恵と工夫が詰まっているのです。