建物をどんなに丈夫に造っても、それを支える地面が軟弱ではまさに「砂上の楼閣」-建物は沈下してしまいます。地盤の強さにばらつきがある場合、建物は不揃いに沈下します。これを不同沈下といい、建物にゆがみなどを生じさせ構造的に問題を生んでしまいます。建築物にとって良い地盤とは固く、建物を支持するのに充分で、自然災害時にも支持する力を失わない地盤です。
工場においても固い地盤の重要性は例外ではありません。工場建築では極めて精密な工作機械やプレス機やマシニングセンタ、各種加工機などの重量を有するマシンを置くなど、土間に極めて高い要求性能が求められます。土間の性能はコンクリートの厚みや素材だけで決まる訳ではありません。その下にある地盤の状態も大きく土間性能に影響を及ぼします。
土間の厚みを大きくするよりは、地盤改良や杭打ちを行う方がコストダウンできる場合もあります。土間はコンクリートだけでなく、地盤も併せて検討するべきです。また、地盤が軟弱の場合には、どれだけ土間を厚くしても要求性能を満たすことができないことがあるので、地盤の調査はとても重要です。
地盤調査について
地盤調査の目的は、連続した地層と支持力の確認、地下水位の確認、圧密沈下層や液状化層の確認、そして建物を支える支持層の確認にあります。
地盤調査でわかること
地盤調査でわかることは、次のことです。安全で経済的な基礎工法。地震時に液状化を起こす可能性。地中の粘土層の、長期間の累計沈下量。などです。
地盤調査で最も重要なのは、地下水位の把握です。次に、その地盤が、自然地盤なのか、どこからか持ってきた土なのかです。さらに造成地では、切り土と盛土の把握などです。
地盤調査を行うと、客観的な数値で地盤の強さを把握できます。地盤調査の結果を知ることで、地盤の強さに見合った建物基礎の仕様を決定できるのです。
地盤調査の種類
ボーリング地質調査・標準貫入試験
最もよく行われるボーリング地質調査の一つに「標準貫入試験」があります。この試験によりN値という地盤の強度を数値化した結果と土質構成を把握できる資料採取ができます。試験方法としては質量63.5Kgのハンマーを760mmの高さから落下させてSPTサンプラーを300mm打込むのに要した打撃回数(N値)を記録、測定終了後にサンプラーを引き上げて資料採取を行い、試験孔を利用して孔内水位(地下水位)を計測することができます。このように万能ではありますが、調査時間が長く、調査費が高価なため多測点での調査が出来ず、試験設備も大きい為、狭小地では調査できないなどの短所もあります。
平板載荷試験
載荷板に加える荷重と変位量の関係から地盤の支持特性や変形特性を求める試験方法であり、載荷板は、十分な剛性を持つ、上下面が平滑な鋼製の円形剛板で直径300mm以上、厚み25mm以上を標準とし必要となる最大荷重の大きさや試験地盤面の土質等状況に応じて選定する。長所としては地盤の支持力を直接断定できることであるが、短所として影響する地盤の深さ方向の範囲が載荷板直系の1.5~2.0倍(直径300mmで0.6m)程度であり深度方向の調査が困難なことと作業スペースが大きなことである。
スウェーデン式サウンディング
スクリューポイントを地盤に回転貫入させ、それに要する荷重と回転数から抵抗値を測定する試験です。長所としては、試験装置・試験方法が簡単・容易であり、試験結果をN値に換算でき、深度方向に連続してデータが取れることです。短所としては、礫・ガラなどは貫入困難となり、調査深度は10m程度が目安となります。
ハンドオーガーボーリング
オーガー(掘削器具)を人力で回転貫入し、土をサンプリング採取して調査する試験です。比較的簡単に表層部の土質を確認できるという長所がある一方、人力で回転貫入させるため調査できる範囲に限りがあります。
オートマチック・ラム・サウンディング試験
ロッドの先に取り付けたコーンを地中に打ち込んで、所定の深さまで打ち込むのに必要な打撃回数を測定する試験です。ボーリング標準貫入試験よりも簡単に行え、深度方向に連続してデータが取れ、N値との相関性がよいという長所があります。短所は、高低差の大きい現場での作業が困難という点です。
*ポータブルコーン貫入試験
コーンを人力で地中に押し込んで、そのときの圧力を測定し、面積当たりの抵抗値を求める試験。長所は、抵抗値から一軸圧縮強さ及び粘着力を求めることができるという点です。一方、人力で圧入するため、調査できる範囲に限りがあります。
レイリー波探査
起振器と受信機でレイリー波(※2)速度を測定し、地盤構成と地盤の強度と特性を把握する試験です。長所は、レイリー波速度から間接的に地盤の強度を把握することができ、スペースを取らず、非破壊試験であるという点。短所としては、表層に厚い軟弱層がある場合には大きな起振器が必要になるところです。また、土質分類を行うためにはボーリングデータが必要で、地中障害の反射波の影響を考慮する必要があり、データの解析に熟練を要します。
※1 N値とは土の硬さや締まり具合を表す単位
※2 レイリー波とは地球の地表面に沿って伝播する表面波
地盤改良を行うことになったら
上記のような調査を行い、地耐力(地面が建物を支える強さ)が30KN/㎡以下の軟弱地盤(定義:軟弱地盤の判定目安として、有機質土・高有機質土・N値3以下の粘性土・N値5以下の砂質土を国土交通省「宅地防災マニュアル」で挙げているので必ずしも30KN/㎡以下が軟弱地盤ではない。)と、判断された場合、また敷地とその周辺が埋め立て地や盛り土で造成された土地、過去に陥没があった土地、液状化や不同沈下の可能性がある土地など、総合的な情報により地盤の強化を要すると判断された場合は地盤改良工事が必要となります。
地盤改良工法の種類
地盤改良の方法は「表層改良工法」「柱状改良工法」「鋼管杭工法」の大きく3つに分けられます。
ただし、どれが一番いいというわけではなく、敷地の「地耐力」や「地質」、建てる建物の「大きさ」や「重量」などにより工事の方法は違ってきます。
更に、地盤改良工事の費用となると、工法だけでなく、敷地の「道路状況」や「資材の搬入条件」も加味することになることを理解しておく必要があります。
表層改良工法
表層改良工法は、セメントで地表周辺を固める地盤改良工事です。地盤の軟弱な部分が地表から2mまでの浅い場合に用いられる工法です。表層部の軟弱地盤部分を掘削し、セメント系固化材を土に混ぜて強度を高めます。また、表層改良の範囲は建物の外壁面より50cm外側までとなります。
メリットとして、工事費用が比較的安価、他の工法に比べて小型の重機でも工事が可能、地盤にコンクリートや石が混入していても施工可能などがあります。
デメリットとしては、地盤改良面より地下水位が高い場合は対応できない、勾配の強い地盤面では施工が難しい職人さんの技術により仕上がりの強度にムラができやすいなどがあります。
柱状改良工法
柱状改良工法は円柱状に改良した地盤によって建物を支える地盤改良工事です。軟弱地盤の深さが地中2~8mの場合に用いられる工法です。地中に直径60cmほどの穴をあけ、良好な地盤まで掘り、地盤を掘る過程で水を混ぜたセメントを注入し、土に混ぜて固めて円柱状の固い地盤を築き強化する仕組みです
メリットとしては、比較的に小型の重機でも施工可能、地盤の強度によっては支持層(強固な地盤)がなくても強度を保てることがあげられます。
デメリットとしては、施工後は地盤を現状に戻すことが非常に難しいこと、改良杭が残ってしまうので、土地の売買価格が下がる原因になることなどがあります。
鋼管杭工法
鋼管杭工法は、鋼管で地中から建物を支える地盤改良工事です。地中30mまでの地盤強化が可能です。地中深くにある固い地盤に鋼管の杭を打って、建物を安定させます。工事に掛かる日数も少ないため、短い期間で工事を終わらせたいという方にもおすすめです。
メリットとしては、強度が高く、重量のある建物にも対応可能、費用はかかるが、原状復帰することができることがあげられます。
デメリットとしては、支持層まで鋼管杭が届かなければ強度が保てない、大型の重機が必要なため敷地状況によっては工事が出来ないこと、工事中の騒音や振動が大きいことなどはあげられます。
地盤調査・地盤改良を業者に依頼する場合の注意点
地盤調査の方法と、その後の地盤改良工事についてみてきましたが、最後にそれを業者に依頼する際の注意点について記します。
地盤調査を業者に依頼する際の注意点
地盤調査の専門技術者が在籍しているかどうか
地盤調査は豊富な専門知識と高い技術、多くのデータを持っている業者に行ってもらうことが大切です。依頼する業者を選ぶときには必ず、「地盤品質判定士」や「住宅地盤主任技士」などの専門の技術者が在籍している企業かどうかを確認しましょう。
地盤調査報告書を発行してもらえるか
地盤調査終了後に「地盤調査報告書」が発行されるかどうか確認しましょう。地盤調査報告書は、地盤調査を実施した証明になるだけでなく、地盤状態の詳細が記されており「土地の身分証明書」になります。すでに地盤調査が済んでいる土地を購入する場合にも、地盤調査報告書の写しを請求することが可能です。
地盤改良工事を業者に依頼する際の注意点
見積もりの時点で工事の内容を必ず説明をしてもらい、行った工事について依頼側もしっかり把握しましょう。また、工事が済んだら、業者から地盤改良工事報告書を発行してもらいます。施工業者は、建築に関しての専門家ですが決して任せきりにはせず、見積もりから工事完了までの各過程においても把握するようにしましょう。
まとめ
建物は地盤の上に建てられ、自重荷重だけではなく、風や地震による水平力も基礎を介して地盤に伝えられます。建物・基礎・地盤は三位一体の関係にありますから、建物を建設する前には専門家による地盤調査をしっかりしてもらうことが重要です。
また、地盤が弱いことがわかった場合には適切な地盤改良工事を行うことによってより長く安心して使用できる工場を建設することができるようになります。