工場や倉庫を建設する際に、鉄骨構造が多く選ばれているのはご存知ですか?
一般的に短い工期と比較的安価な建設費用、そして何よりも柱の少ない広いフロアを実現できる点が、工場や倉庫の建設に適しているためです。
しかし鉄骨構造といっても様々な分類があり、それぞれに特徴があります。
また他の建築構造と比較した際にも、鉄骨構造で建設するメリットとデメリットがあります。
この記事では鉄骨構造の基本的な種類やその特徴、工場や倉庫を建設する際に考慮すべき・耐震性・耐火性・防音性・建築費用・工事期間の5項目に対してのメリットとデメリットについて述べていきます。
鉄骨構造の種類と特徴
鉄骨構造での建設は使用される鋼材の特徴により、長いスパンでの柱の実現や壁の少ない建設が可能となります。そのため広いフロアを可能にし、工場や倉庫を建設する際に適した建築構造となります。
また主要なパーツをある程度工場で組み立てた状態で現場に持ち込み、組み立てて建設することから、工期が短く安価な建設が可能なことも特徴です。
鉄骨構造での建設にはいくつか種類がありその分類方法も様々ですが、ここでは使用される鋼材の種類とそれに伴う建築構造での各々の特徴を記載していきます。
軽量鉄骨
軽量鉄骨構造とは、厚さ6mm以下の軽い鋼材が用いられる工法です。
予め工場である程度組み立てられた鋼材を用いて建設を行うため、工期が短く比較的安価で建設することが可能です。
しかし用いられる鋼材の軽さから枠組みのみでは十分な耐震強度が得られず、筋交いを入れる必要があります。筋交いの入った部分は壁を抜くことが出来ないので、間取りの自由度が低い、リフォームがしづらいという特徴があります。
重量鉄骨
重量鉄骨構造とは、厚さ6mm以上の鋼材を用いて行われる工法で、ラーメン構造やトラス構造で建設されます。
柱や梁に重量のある鋼材が使用されるため、軽量鉄骨に比べて強度があります。
そのため筋交いを入れる必要がなく、間取りの自由度が高くリフォームもし易くなります。
しかし軽量鉄骨に比べて全体の重量が重いため、しっかりとした地盤や基礎工事が必要となり建設費用は高くなります。
ラーメン構造
ラーメン構造とはドイツ語のRhamenに由来し、額縁、枠という意味です。
その名の通り、長方形に組まれた柱と梁の接続部分を固定し、組み合わせて骨組みを作る構造です。
柱と梁でしっかりとした強度を出すため筋交いを入れる必要がなく、壁の少ない間取りを実現することが可能です。
また木造に比べて強度があり、鉄筋コンクリートに比べて軽い鋼材を使用するので、スパンの長い柱が可能になります。そのため柱の少ない、広いフロアを実現することが出来ますが、接続部分の強度が重要になります。
トラス構造
トラス構造とは、三角形に組まれた鋼材を組み合わせて行われる建築構造です。
各接合部分はピン接合という、自由に回転する形式で接合されています。
接合部分が自由に回転するため圧力は軸方向のみにかかり、安定感のある構造となります。
鋼材に掛かる負荷が少ないため、細い鋼材でも建設が可能となり、主に大規模な建築物の屋根などに使用される構造です。
しかし構造が複雑なため、工期や費用がかかる傾向にあります。
鉄骨構造のメリットとデメリット
鉄骨構造で建設を行う際にはメリットもありますが、当然デメリットもあります。
工場や倉庫を建設する際に考慮したい項目について他の建築構造との比較も交えながら、鉄骨構造のメリットとデメリットについて下記に記載していきます。
耐震性
耐震性に関しては建築基準法においての基準が定められているため、どの建築構造でも震度7に耐えるだけの強度は備えているといえます。しかしそれぞれの建築構造によって地震の際に感じる揺れや倒壊の危険性などに違いが生じます。
鉄骨構造の建築物は折れない鋼材を使用していることから、地震の際に柱が折れて完全に倒壊するという危険性はほぼないといえます。この点に関して木造建築構造と比べると耐震性は高いといえます。
しかし鋼材の硬さにはしなやかさがなく、全体の重量が重いため、地震の際の揺れは木造建築構造に比べて大きく感じます。
また木造建築構造と比べて重量のある鋼材を使用していることから、接合部分にかかる圧が大きくなります。そのためしっかりとした接合を行っていないと十分な耐震性を得ることは出来ないので、鋼材の強度を十分に活かすために鋼接合部分の強度が重要です。
さらに、コンクリートの圧縮に耐える性質と、鉄筋の引っ張る強さに耐える性質を併せ持つ鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造と比べた際にも、鉄骨構造の方が揺れを大きく感じるといえます。
耐火性
鉄骨構造に使用される鋼材は主に鉄ですので、それ自体が火災によって燃えるということはないといえます。しかし鋼材は540℃を超えると急激に強度を失うという性質があるため、消火までの時間が長引き温度が上昇した際には、強度を失った柱が崩れて倒壊するという危険性があります。
鉄の鋼材をコンクリートで覆っている鉄筋コンクリート構造や鉄骨鉄筋コンクリート構造に比べると、耐火性はやや劣るといえます。
しかし鉄骨のまわりに耐火被覆材を補強し、熱を伝えにくくすることで耐火性を上げる工法なども存在するため、これらを用いて耐火性を上げる事が可能です。
防音性
鉄骨構造は骨組みには硬い鋼材を用いていますが、壁自体は防音性の低い軽い素材が使われています。
そのため骨組み自体も軽い素材の木造建築構造よりは防音性が高いといえますが、鋼材の間にコンクリートが敷き詰められている鉄骨鉄筋コンクリート構造や鉄筋コンクリート構造に比べると、防音性が劣るといえます。
しかし床や壁に緩衝材やグラスウールなどの防音材を使用し、防音性を高める事が可能です。
建築費用
鉄骨構造での建築は、柱や梁などのパーツをある程度工場で組み立てたものを建設現場に運び組み立てて行うため、建築工程が少なくなります。
そのため柱や梁の間にコンクリートを流し込む鉄骨鉄筋コンクリート造や、鉄筋コンクリート造の建築に比べて費用は安価であるといえます。
しかし鋼材自体の値段から、木造建築造と比べると費用は高くなる傾向にあります。
また建築初期費用としては上記のとおりですが、それぞれの建築構造によって法定耐用年数が異なることから、長期的に見た場合の費用としては上記とは異なってきます。
具体的な工場や倉庫の建築構造別の法定耐用年数は以下のとおりです。
法定耐用年数 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造 |
38年 |
鉄筋コンクリート造 | |
鉄骨造 | 31年 |
木造 | 15年 |
このように鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造に比べると、鉄骨造の工場や倉庫は法定耐用年数が短く、メンテナンスやリフォームなどを考えた際に長い目で見ると、必ずしも建築費用が低いとは言い切れません。
工場や倉庫を解体する際に関しては、鋼材である鉄が有価物であることから、解体費用は他の建築構造と比べると安価で住む場合が多いといえます。
このように費用に関しては、初期費用や長期的な費用、解体費用と全てを考慮することで、それぞれの建築構造のメリットとデメリットが変わってくるのが特徴です。
工事期間
鉄骨構造での工場や倉庫建設の場合、基本的には他の建築構造に比べて工事期間は短くなります。
あらかじめ工場である程度組み立てられた骨組みを、現場で組み立てて行うためです。
そのため、建築工程の多い鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造、木造に比べると工事期間が短いといえます。
しかし屋根部分にトラス構造を用いたり、耐火性や防音性を高めるために緩衝材や防音材を施すなどの工程を組み込んだ場合は、工事期間も伸びます。
同じ鉄骨構造の建築を行うにしても、軽量鉄骨構造なのか重量鉄骨構造なのか、プラスアルファの対処を行うのかによって工事期間にも違いが出てきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。鉄骨構造で工場や倉庫を建設する際のメリットとデメリットについて述べてきましたが、ひとくちに鉄骨構造と言っても軽量鉄骨構造、ラーメン構造、トラス構造とそれぞれに特徴があります。
一般的な建築については他の建築構造と比べる際に、短期的に見るか、長期的に見るかでメリットとデメリットも変わってきます。
デメリットに関してもそのデメリットを補う方法が存在していたり、一概にどの建築構造が良いと言いきれないのが事実です。
しかし工場や倉庫を建設する場合には、柱が少なく広いフロアを確保することが出来る鉄骨構造は、相対的に見て適しているといえます。
気をつけておきたいのは、敷地が狭く隣接する建築物との距離があまりない場合には、スパンの長い鋼材を持ち込んで組み立てる事が不可能な場合もあるという事です。
またある程度組み立てられた鋼材を使用することから、敷地の形状によっては土地を最大限に有効活用するような建設が不可能な場合もあります。
様々な角度からメリットとデメリットを考慮し、計画にあった建築構造やオプションを選んいくことで失敗のない工場や倉庫の建設が可能になります。
最後に各建築構造の各項目に対する基本的な評価を、以下の表にまとめます。
鉄骨鉄筋コンクリート | 鉄筋コンクリート | 重量鉄骨 | 軽量鉄骨 | 木造 | |
耐震性 | ☆☆☆ | ☆☆☆ | ☆☆ | ☆☆ | ☆ |
耐火性 | ☆☆☆ | ☆☆☆ | ☆☆ | ☆☆ | ☆ |
防音性 | ☆☆☆ | ☆☆☆ | ☆☆ | ☆☆ | ☆ |
建設費用 | ☆ | ☆ | ☆☆ | ☆☆☆ | ☆☆☆ |
工事期間 | ☆ | ☆ | ☆☆☆ | ☆☆☆ | ☆☆ |